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東京高等裁判所 平成元年(行ケ)79号 判決

一 請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本件考案の要旨及び審決理由の要点)は、当事者間に争いがない。

二 取消事由に対する判断

1 審決は、本件考案と引用例記載の考案に係る装置の部材間の対比判断において、引用例記載の止めねじ(別紙図面(二)の止めねじ9、以下同じ。)が本件考案の耐引張り具に、引用例記載のロツドが本件考案の連結部材に相当すると認定しているところ、原告は右認定の誤りを取消事由として主張しているので、判断する。

(一) 本件考案及び引用例記載の考案がいずれも、コンクリートを下方から上方にかけて段階的に打設して所望高さのコンクリート擁壁を構築する際等に、コンクリート型枠の外側に向かつて作用する打設荷重の一部を既に打設済みのコンクリート部に負担させることによりコンクリート型枠を引張り支持するための装置に関すること、引用例記載考案の「完成壁」「アイボルト」「アイボルトのアイ部」が、それぞれ本件考案の「打設コンクリート部」「アンカー本体」「孔」に相当することは当事者間に争いがない。

(二) 前記当事者間に争いのない本件考案の要旨に成立に争いのない甲第二号証(以下「本件公報」という。)を総合すれば本件考案は、右(一)記載のようなコンクリート型枠引張り支持装置に関し、前記本件考案の要旨のとおりの構成、すなわち打設コンクリート部に埋入されるアンカー本体の上方突出端部にコンクリート型枠から連設の耐引張り具との連結用孔を有する連結部材を回動自由に取り付ける構成を採用することにより、右アンカー本体と耐引張り具とを右連結部材を介して連結するようにした点にその特徴を有するものと認めることができる。そして、成立に争いのない乙第三号証(本件公報中に従来技術として記載された実公昭五一―四〇六六一号公報)をも参酌すれば、本件考案が、基本的には、打設コンクリートに埋入されて係留作用をすることを目的とする部材(このようなものを以下「係留部材」という。)及び右係留部材とコンクリート型枠との間に架設され、コンクリート打設時にコンクリート型枠にかかる荷重(外側への引張り力)に抗し、かつ右荷重を係留部材を介して打設コンクリート部に伝える作用をすることを目的とする部材(このようなものを以下「架設部材」という。)から構成される、この種装置における従来公知の構成を前提としたうえで、右係留部材に相当するアンカー本体と架設部材に相当する耐引張り具との連結部の構成について工夫したものであることもまた明らかなところである。

(三) 次に引用例記載の考案についてみるに、引用例に審決摘示のとおりの構成があること(ただし、「止めねじの遊端を連結することにより、前記コンクリート型枠を引張り支持するクランプ装置」とした点は除く。)及び引用例記載の考案が本件考案と同様のコンクリート型枠の引張り支持装置に関する考案であることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第三号証(引用例)によれば、引用例記載の考案は、従来は一旦使用後は廃棄せざるを得なかつたコンクリート型枠の再使用を可能ならしめるために、コンクリート型枠とロツドとの連結部をコンクリート型枠に挿通された止めねじとロツドに取り付けられたブロツクの孔との螺合によつて固定する構成とし、コンクリートの打設、固化後は、アイボルト、ロツド及びブロツクを完成壁内に残したまま、止めねじとブロツクの孔との螺合を解除することによりコンクリート型枠のみを取り外せるようにしたことを特徴とする考案であることが認められる。

(四) そこで、前記のとおり、引用例記載の止めねじが本件考案の耐引張り具に、引用例記載のロツドが本件考案の連結部材に相当するとした審決の認定の当否について検討する。

まず、審決が引用例記載の考案の止めねじが本件考案の耐引張り具に相当するとした点についてみるに、前記(二)の認定に徴すれば、本件考案の耐引張り具は、係留部材たるアンカーとコンクリート型枠との間に架設され、コンクリート打設時にコンクリート型枠にかかる荷重(外側への引張り力)に抗し、かつ右荷重をアンカーを介して打設コンクリート部に伝える作用をすることを目的とするものと認められるのに対し、引用例記載の止めねじは、前記(三)の認定に徴し、コンクリート型枠にロツドを解除可能な状態で連結することを目的とする部材にすぎないことは明らかである。そして本件公報(前掲甲第二号証)中には具体的な記載はないものの、本件考案においても、その耐引張り具がコンクリート型枠に何らかの手段で連結されることを前提としているものであることは明らかであるところ、引用例記載の止めねじは、かかるコンクリート型枠への耐引張り具の連結手段に相当するものと解するのが相当である。

被告は、本件考案の耐引張り具は、その具体的構成について実用新案登録請求の範囲に何らの記載もなされていない以上、一端をコンクリート型枠に、他端をアンカー本体に直接又は間接に連結される構成を有し、かつ本件考案の耐引張り具同様の耐引張り機能を有するものをすべて包含するものとしたうえで、引用例記載の止めねじもその要件をすべて備えるものであるから、両者が相当するとした審決の認定に誤りはない旨主張する。たしかに引用例記載の止めねじは、前記認定のとおり、コンクリート型枠を挿通して一端がコンクリート型枠内に突出し、コンクリート型枠内で該突出部をロツドに取り付けられたブロツクの孔に螺合させているものであるから、その意味では、コンクリート型枠と打設コンクリート部に埋入されたアイボルトとの間にあつて、コンクリート打設時にコンクリート型枠にかかる打設荷重(外側への引張り力)を受け、かつ、これをロツド及びアイボルトを介して打設コンクリート部に伝える作用をも有するものであることは否定できないが、それは、止めねじの右突出部がコンクリート型枠とアイボルトとの中間に位置することによるいわば必然の結果にすぎず、その本来の目的がロツドをコンクリート型枠に連結する点にあることは疑いを入れないところであるから、かかる機能をも併有するからといつて、それを根拠に本件考案の耐引張り具と同一視することはできないものというべきであり、また、被告の本件考案の耐引張り具に関する主張も、かかるものまで含まれると解する点において不当であるというべきであつて、到底採用できない。

そうであれば、この点に関する審決の認定は誤りといわざるを得ない。

次に、審決が引用例記載のロツドが本件考案の連結部材に相当するとした点は、本件考案の実用新案登録請求の範囲において、その連結部材が耐引張り具とアンカーとの間を連結する部材である旨明確に規定されているのであるから、前記のように引用例記載の止めねじが本件考案の耐引張り具に相当するとの認定が認められない以上、成り立ち得ないものであることは明らかであるから、この点に関する審決の認定も誤りである。

また、前掲甲第二号証に徴すれば、本件考案において、連結部材を設けた目的は、アンカー本体と耐引張り具との間にあつて、右連結部材を自由に回動させてその姿勢を耐引張り具の傾斜に合わせ、連結部材に設けられた連結用孔に連結ピンを挿入するなどして、両部材を連結するという点にあることが認められ、一方、引用例記載のロツドは、前掲甲第三号証の特にFig1に徴し、そのコンクリート型枠引張り支持装置全体に占める大きさ、配置等からして、アイボルトと止めねじの連結というよりは、むしろ、本件考案の耐引張り具と同様の目的をもつて設けられたものと認めるのが相当であるから、本件考案の連結部材と引用例記載のロツドを同一視することはできず、審決の認定はこの点からも相当でないといわなければならない。

なお、被告はこの点に関しても、耐引張り具と止めねじの対比判断に関する主張とほぼ同様の主張をしているので、耐引張り具の点と合わせて再論するに、前掲甲第三号証によれば、引用例記載の考案に係る装置においても、基本的には係留部材と架設部材とで構成されている点で前記(二)認定のこの種の装置における公知の構成と異なるものではなく、したがつて、アイボルト及びロツドがそれぞれ係留部材及び架設部材に相当する部材であり、ただ、引用例記載の考案においては、コンクリート型枠とロツドとの連結部を前記(三)認定のような止めねじによる構成としたほか、アイボルトとロツドとの連結部を、アイボルトのアイ部とロツドの一端に形成したアイ部を破損しなければ分離できないような状態で連結する構成とした点で特異であるにすぎないと解されるのであり、他方、前記(二)認定のとおり、本件考案の「耐引張り具」との文言が従来技術における架設部材に相当する部材の表現として使用されていることは明らかであつて、これらの点は、従来技術の状況に照らし、当業者においても等しくそのように認識するものと推測できるところであるから、たとい、被告主張のように実用新案登録請求の範囲の記載が機能的文言で表されているとしても、明細書中にそれを支持するような記載がないにもかかわらず、その文言を被告主張の如く極めて広く解することは相当でないものといわざるを得ない。

更に、被告は、引用例に図示された装置において、図示のものとは逆に、ロツドを短尺、止めねじを長尺にして、止めねじの耐引張り機能を多くすることも当業者の極めて容易になし得るところにすぎない旨主張するが、前記(三)認定のとおり、右止めねじは、コンクリートの打設、固化後ブロツクの孔との螺合を解除することを予定しているのであり、また、引用例中に「型枠の取り外し後、止めねじの取り外しで生じた穴はセメントを埋めることで補修できる」(前掲甲第三号証・訳文四頁九行ないし一一行)との記載があることに徴すれば、右止めねじは、打設コンクリートの固化後に、コンクリート内でブロツクの孔との螺合を解除したうえ抜去する必要があるものと認められるから、かかる部材を長尺化するようなことは引用例の何ら予定又は示唆するところでないといわざるを得ず、そうであれば、止めねじを長尺化し得ることを前提に本件考案との対比をすることが相当でないことも明らかである。

(五) 以上によれば、本件考案と引用例記載の考案に係るコンクリート型枠の引張り支持装置において、前者のアンカー本体及び耐引張り具が、それぞれ後者のアイボルト及びロツドに相当するものというべきであり、そうである以上、審決のなした本件考案の部材と引用例記載の考案の部材との間の対比判断は、対比すべき対象を誤り、本来対比すべき部材とは異なる部材との間にその対比判断をなしているものにすぎない点で、その判断の前提自体を誤つているものといわざるを得ない(なお、その結果、審決は、引用例記載の考案においては、本件考案におけるような、耐引張り具とアンカー本体とを独立部材たる連結部材を介して連結するという構成を欠いている点を看過しているものである。)。

(六) そして、前掲甲第二号証に徴すれば、本件考案は、耐引張り具とアンカー本体とを連結部材を介して連結する構成を採択した結果、アンカー本体と耐引張り具との連結を作業現場において容易かつ確実に行うことができるものであることが認められる他、その構成等に徴し、原告主張のように、工事の種類等によつて必要とされる耐引張り具の長さが変わり、これを取り換える必要が生じた際等に、アンカーまで取り換える必要がない等の利点が得られることが窺われ、少なくとも、これらの点は、本件考案のような連結部材を有さず、アイボルトとロツドとを破損しない限り分離できないような形態で一体に連結するものである引用例記載の考案によつては得られない作用効果であるということができる。そして、かかる作用効果は、係留部材の埋入位置とコンクリート型枠への架設部材の連結位置との位置関係如何によつて、異なる長さの架設部材を使う等の必要の生じることも予想されるこの種装置においては、必ずしも些細な差異とも断じがたく、したがつて、この点に関する本願発明の構成に技術的意義がないと断ずることもできない。

なお、被告は、本件考案の実用新案登録請求の範囲中には耐引張り具の長さの調整等に関する記載は全くないのであるから、本件考案の作用効果の判断上かかる点は考慮されるべきでない旨主張するが、前記のように異なる長さの架設部材を用いる等の必要が生じることもあり得ることは、その施工方法等に照らし容易に推測し得るところであり、また、前記当事者間に争いのない本件考案の要旨に徴し、本件考案はアンカー本体及び連結部材の構成をその直接の対象とするものであつて、その余の耐引張り具等の部材に関する記載は右アンカー本体及び連結部材の使用の前提等を説明するためのものにすぎないことが明らかであるから、少なくとも作用効果の判断に際し、かかる点についてまで、被告主張のように実用新案登録の範囲に明記がない限り考慮を許されないものと解すべき根拠は見出しがたい。

2 以上によれば、原告主張の取消事由は理由があり、かつ、この点の誤りが審決の結論に影響を及ぼすべきものであることは明らかであるから、審決は違法として取消しを免れない。

三 よつて、原告の本訴請求を正当として認容する。

〔編注1〕本件考案の要旨は左のとおりである。

打設コンクリート部1に埋入固定し、かつその突出端部にコンクリート型枠2から連設の耐引張り具3の遊端を連結することにより前記コンクリート型枠2を引張り支持するアンカーであつて、打設コンクリート部1に埋入固定するアンカー本体6の上方突出端部に孔9を形成し、該孔9に対して、前記耐引張り具3を連結するための連結用孔8aを有する連結部材8を、該孔9に挿通した軸の軸芯a周りで自由回動可能な状態に連結してあるコンクリート型枠引張支持用アンカー(別紙図面(一)参照)。

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

図面(一)

<省略>

図面(二)

<省略>

(他は省略)

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